
西村 拓
東京大学大学院農学生命科学研究科
環境地水学研究室
2025年4月から33代目の土壌物理学会会長に就任しました。前期、前々期の会長、事務局の皆様の努力で、学会誌のオープンアクセスに向けた準備や、投稿システムの導入、会員への支援、表彰の仕組みが整いつつあります。しかしながら、今後の会の維持のためには、さらに会員の確保に工夫を凝らすことが必要と考えられます。方策の一つである学会誌土壌の物理性のIF(インパクトファクター)獲得のために挑戦していたSCOPUSへの登録は、今春、残念ながら不可となってしまいました。次の挑戦は5年後となりますが、編集委員会や査読手続に関する情報の英文による公開やPublication Ethicsの整備、掲載論文の被引用数の増加等、登録に関する課題が明らかになってきたので、次回に成功することを目指して再出発を図りたいと思います。
さて、FAO(国連食糧農業機関)のGlobal Soil PartnershipのページにSoil functionsという土壌に由来する生態系サービスを整理した図があります。この中には、①炭素固定、②水の浄化、③気候制御、④物質循環、⑤生物の生息地、⑥洪水緩和、⑦遺伝資源、⑧社会基盤の基礎、⑨建設材料、⑩文化、⑪食料・繊維・燃料の生産といった役割が提示されています。土壌物理学は、関わりの濃い薄いを問わなければ、①、②、③、④、⑥、⑪と過半数の項目に関わります。また、2015年のVienna Soil Declaration “Soil matters for humans and ecosystems”においても保水、透水、濾過機能といった土壌物理性が解明するべき項目として提示されています。このような機能を最大化するためには,実験やモニタリングによって現象を明らかにすると他に測定法の開発よって測定可能な「量」を増やすといったことが土壌物理学において重要な対象になります。当学会ができて67年経ちますが、まだまだ土壌物理学にはやるべき仕事が残っており、60年以上の蓄積を生かして貢献すべきことがあると改めて認識していただきたく思います。
こういった土壌の問題を解決するためには、10年単位の取り組みが必要ということで国際土壌科学会(IUSS)が中心となって上記の2015年から2024年までInternational Decade of Soils 2015-2024が行われていました。まだまだ不十分ということで今年からもう10年間、2025-2034 – Decade of Soil Sciences for Sustainable Developmentが推進されることになりました。こういった企画にも関心を持っていただけると幸いです。
また、今年2025年8月には登尾前会長、溝口元会長が中心となって受け入れるKirkham Conference(福島県Jヴィレッジ於)。来年2026年には、世界土壌科学会議(WCSS、https://www.23wcss.org.cn/)が南京で開催されます。WCSSについても既に発表の公募が開始されていますので、参加をご検討いただければと思います。
土壌物理学が関わることができるテーマは非常に幅広く存在します。活躍の場はいくらでもありますが、その状況を活かしているとは言いかねるところもあります。一人一人の会員の皆様が、自分のテーマに内向きにならず、今、現在進行形で扱っているテーマの広狭に関係なく、自分の研究と直接関係ない事象や発表についても「自分の研究やその成果(予定含む)」と何か関連が無いかといったスタンスで視聴し、コメントや質問を発することで活性化が進むと思います。少しで結構ですので、試してみていただければと思います。
土壌物理学会は、土壌物理に関する研究の進歩と普及を図り、農業技術及び環境科学の発展に貢献することを目的として、1958年に土壌物理研究会として発足しました。会員数は約300名と小さな学会ですが、60年の歴史を持っています。1985年に更なる発展を目指して、土壌物理学会と改称し、今日に至っています。
第32期
第31期
第30期
第29期
第28期
第27期
第26期
会員の最新の研究成果を発表する場として、学会誌「土壌の物理性」を、1997年までは毎年2号、それ以降は毎年3号、刊行しています。2023年7月3日現在で153号までになりました。本誌には約半世紀にわたり、我が国の農業そして海外の研究動向を反映した研究成果が収録されています。先人の研究には多くの貴重なヒントがあります。これを広く普及し、研究の進展・深化に寄与することも学会の大切な役割であると考え、150号までの記事を土壌物理学会ホームページに無料で公開しています。150号には「みんなのミニレビュー」と称して学会員の多様な研究テーマを掲載しています。
学会では、会誌の発行の他に、毎年1回シンポジウムとポスター発表を行っています。シンポジウムのテーマは会員にとって有益だと考えられる最近の主要な研究トピックから選び、講師には会員、非会員を問わず適任者を選んでいます。また、シンポジウムに参加できなかった会員のために、会誌でシンポジウムの報告記事を掲載しています。
シンポジウムと同時に、ポスター発表も行っています。情熱に燃える院生から完成の域に達した研究者まで多くの方が発表していますが、特に若い研究者には、発表をする、自分の身近な組織外の専門家の意見を直接聞くことができる絶好の機会となっています。
また、学会誌「土壌の物理性」に掲載された原著論文の中から特に優秀な論文に土壌物理学会賞(論文賞)を授与しています。さらに、年一回の全国大会ポスターセッションにおいて優秀と認められたポスター発表には土壌物理学会学会賞(ポスター賞)を授与しています。